大きさ  行間

マザア・グウスの歌

北原白秋

マザア・グウスのおばあさん、
いつもであるくそのときは、
きれいながちょうの背にのって、
空をひょうひょう翔(か)けてゆく。

マザア・グウスのすむ家(いえ)は、
一つ、ちんまり、森の中、
戸口にゃ一羽の梟(ごろすけ)が
みはりするのでたっている。

むすこがひとりで名はジャック、
その子まずまずお人よし、
ずんとよいことせぬ代わり、
ずるいわるさもようしえぬ。

市場(いちば)へジャックをやったれば、
めすのがちょうを買ってくる、
「まあまあ、お母さん、みておいで、
そのうちいいこともあるでしょよ」

それからがちょうのめすとおす
なかよしこよしであそんでる。
いつもいっしょに餌(え)をたべて、
ガアガア、お池におよいでる。

ある朝、ジャックがいってみりゃ、
(ほんに話によくきいた)
金の卵がありまする。
うんでくれたはめすがちょう。

金の卵だ、はよ告(つ)げよ、
ジャックはお母さんへとんでゆく。
お母さんもほくほくごきげんだ。
「それはよかった、おおできじゃ」

ジャックは卵をうりにでる。
それをかおうと猶太人(ジュウ)の悪者(わる)、
おもう半値もつけないで、
うまうまジャックをちょろまかす。

ジャックはお嫁とりにゆきまする。
むこうのおじょうさん華美(はで)好きで、
それはかわいい、うつくしい、
花の山査子(さんざし)、百合(ゆり)みたよう。

ところへ、あとからつけまわす
猶太人(ジュウ)とおしゃれのおべっか屋、
脇腹(わきばら)めがけて、ぶってやろと、
かわいそなジャックにつっかかる。

そのときすばやく、すっときたは、
マザア・グウスのおばあさん、
杖(つえ)でジャックをちょいと打ちゃ、
道化の*ハアレクインにはやがわり。
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